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マイホームの購入時に知っておきたい「住宅資金贈与の非課税特例」

2019年10月1日から消費税率が8%から10%に引上げられましたが、同時に「住宅取得等資金贈与(以下、住宅資金贈与)」の非課税限度額が大幅に拡大されました。これは消費税率アップによる住宅需要の落ち込みを緩和するための税制上の支援策のひとつです。この「住宅資金贈与」とはどのようなものでしょうか。これからマイホームを考えたいパパママのために住宅資金贈与のメリットと活用方法、注意点について解説します。

大幅に拡大した「住宅取得資金等贈与の非課税特例」とは?

「住宅資金贈与の非課税特例」とは、父母や祖父母から、住宅の新築、取得または増改築等(以下、新築等)のための資金の贈与を受けて住宅の新築等をした場合、一定の要件を満たせば、非課税限度額までの金額については贈与税が課税されないという制度です。
「贈与税」については後ほど詳しく解説します。

この住宅資金贈与の非課税限度額が、2019年10月1日から改正されました。改正前と改正後の非課税限度額は次のとおりです。
【改正前】
省エネ等住宅(※)…1,200万円  それ以外の住宅…700万円
【改正後】
2019年10月1日~2020年3月31日
省エネ等住宅…3,000万円  それ以外の住宅…2,500万円

2020年4月1日~2021年3月31日
   省エネ等住宅…1,500万円  それ以外の住宅…1,000万円

2021年4月1日~2021年12月31日
   省エネ等住宅…1,200万円  それ以外の住宅…700万円

※省エネ等住宅とは断熱性能が高い、高齢者配慮がされている、耐震性が高い、免振建築などのいずれかに該当する住宅用の建物をいいます。

とくに、消費税率が引上げられた直後の6カ月間については、省エネ等住宅、それ以外の住宅ともに1,800万円も非課税枠が大幅に拡大されています。

これは、消費税率が10%に引上げになることにより、引上げの影響が大きい住宅が買い控えされることを懸念した国が、住宅ローン控除の拡充、住まい給付金の増額、次世代住宅エコポイントの創設、そして住宅取得資金贈与の非課税限度額の拡大といった手厚い対策を講じることにより、住宅需要の落込みを抑えようとしたからです。

これらの施策の成果か、過去の消費税の引上げ時に見られた住宅の駆け込み需要が、今回はあまり見られませんでした。落込み対策は一定の成果があったといえます。

そもそも贈与とは? 贈与税とは?

住宅資金贈与の非課税特例がどのくらいメリットがあるかを知っていただくために、はじめに贈与税のしくみを簡単に解説します。

贈与とは、ある人が自分の財産を無償で相手の人に贈るということを意思表示して、相手の人も受け取ることを承諾することによって成立する「契約」のことをいいます。契約といっても必ずしも書面でおこなう必要はなく、口頭でも書面でも贈与は成立します。

贈与税は、贈与を受けた財産の価額(課税価格)の1年間の合計額が110万円の基礎控除を超えた場合に、基礎控除を超える金額に対してかかる税金です。

贈与税の税率は、課税価格が基礎控除を超えた分に対し段階的に高い税率がかかるという超過累進税率になっています。なお、20歳以上の人が、直系尊属(父母や祖父母など)から受ける贈与を「特例贈与」といい、それ以外の「一般贈与」よりも贈与税が軽減されます。

例えば特例贈与の贈与税率は、基礎控除後の課税価格が200万円以下の場合は10%ですが、200万円超400万円以下の部分は15%、400万円超600万円以下の部分は20%と高くなり、4,500万円超の部分は55%と最も高い税率になります。

なお、親から子など扶養義務者相互の間での通常必要と認められる生活費、教育費や、社会通念上相当と認められる香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物、見舞いなどの金品については非課税財産とされ、贈与税はかかりません。

税率が高いとされる贈与税ですが、「住宅資金贈与」については、基礎控除を大きく超えても、前述の非課税限度額までは贈与税がかからずに贈与ができます。それだけメリットの大きな贈与といえるでしょう。

住宅資金贈与の主な要件

住宅資金贈与の非課税特例を受けるためには、次の適用要件を満たさなければいけません。

・贈与者:直系尊属(父母、祖父母など)
・受贈者:子や孫で、その贈与があった年の1月1日現在で20歳以上
・受贈者の所得:合計所得金額が2,000万円以下
・資金の使途:①住宅の新築 ②新築住宅の購入 ③一定の中古住宅の購入 ④住宅と同時に取得する土地または借地権 ⑤住宅の増改築 ⑥先行して取得する敷地
・居住等の条件:原則、贈与年の翌年3月15日までに新築または取得した上で居住(贈与年の翌年3月15日以降、遅滞なく居住することが確実であると見込まれる場合も含む)
・適用期限:2021年3月31日まで

また、取得する建物の要件は次のとおりです。
・床面積50㎡以上240㎡以下
・床面積の2分の1以上が居住用
・中古住宅の場合、次のA、Bのいずれかの要件を満たすこと
A:一戸建は築20年以内、耐火建築物(マンションなど)は築25年以内
B:一定の耐震基準を満たすもの
・増改築の場合は、工事費が100万円以上で、費用の2分の1以上が居住用にかかるものであること

住宅資金贈与のメリット

住宅資金贈与の大きなメリットは、贈与税がかからずに住宅資金の援助を受けることができることです。さらに、住宅資金贈与があった年も基礎控除110万円は使えますので、少しでも多くの贈与を受けたい人には、よりメリットが大きくなります。

パパママそれぞれの父母などからの贈与に非課税枠が適用される

住宅資金贈与は、パパママそれぞれの直系尊属(父母、祖父母など)から受けることができます。例えば非課税限度額が3,000万円のマイホームの場合、ふたりで合計6,000万円の住宅資金贈与を受けることも可能です。ただしその場合は、それぞれの贈与された金額の割合で、マイホームを共有持ち分にする必要があります。

住宅ローン控除との併用ができる

住宅資金贈与は住宅ローン控除との併用ができます。そのため、マイホームの予算を住宅資金贈与と住宅ローンで賄う場合、住宅資金贈与分は贈与税が非課税となり、さらに住宅ローン控除により所得税(所得税で控除しきれない場合は一定額までの住民税も)も軽減されます。

相続財産に加算しなくてもよい

通常は、贈与を受けた後に贈与した人が亡くなった場合には、その人が亡くなる前3年以内の贈与分は相続財産に加算され、相続税の対象となります。しかし住宅資金贈与の金額については相続財産に加算しなくてもよいとされています。

住宅資金贈与の注意点

いろいろなメリットがある住宅資金贈与ですが、注意しなければならない点もあります。

贈与税の申告を忘れずに

最も重要なポイントは、住宅資金贈与があった年の翌年2月1日から3月15日の間に、贈与税の申告をする必要があるということです。住宅資金贈与によって贈与税がゼロになる場合でも申告をしないと、この特例を受けることができなくなり多額の贈与税が課税されてしまいます

住宅ローン控除と併用する場合の注意点

住宅ローン控除とあわせておこなう場合、住宅ローン控除の適用を受けられる金額は次のうち低い金額になってしまいます。

1. 住宅ローンの金額
2. マイホームの価格から住宅資金贈与の額を差し引いた金額

つまり、住宅資金贈与と住宅ローンを合わせた金額がマイホームの価格を超えてしまった場合、住宅ローン控除の対象となる金額は、住宅価格から住宅資金贈与の金額を差引いた金額になります。

【例〕住宅の価格5,000万円、住宅資金贈与の金額3,000万円、住宅ローン2,500万円
1. 住宅ローン 2,500万円
2. 住宅の価格5,000万円-住宅資金贈与3,000万円=2,000万円

この例では、住宅ローンを2,500万円借入していても、そのうちの2,000万円分だけが住宅ローン控除の対象となります。

住宅資金贈与を賢く活用して夢のマイホーム!

両親や祖父母が住宅資金を援助してくれれば、その分自己資金や住宅ローンが少なくて済んだり、予算を伸ばしてより良い条件のマイホームを取得したりすることもできます。また、マイホームの購入計画が予定よりも前倒しできる可能性もあります。マイホームの購入を考え始めたら、住宅資金贈与の非課税特例も頭に入れながら計画をしてみましょう。

執筆者プロフィール:

橋本 秋人(ファイナンシャル・プランナー)
住宅メーカーで30年以上相続対策・不動産活用を担当。在職中にCFPⓇ、FP技能士1級を取得。勤務先での業務及び日本FP協会埼玉支部、金融機関、一般法人等でセミナー講師、相談、執筆などを経験。
2016年にファイナンシャル・プランナー、不動産コンサルタントとして独立。現在は、FPオフィス ノーサイド代表としてセミナー、執筆、不動産コンサルティング、相談業務を中心に活動。不動産投資サイト等にコラム連載中。その他メディア執筆多数。