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実家が空き家になる前に知っておきたい!空き家のリスクとお金の話

総務省の調査によると、2018年時点で国内の空き家の数は約846万戸、空き家率は13.6%(※1)。なんと約7件に1件が空き家ということになります。そのうち、賃貸用や別荘などを除いた347万戸が「実家の空き家」といわれる空き家です。空き家には、さまざまなリスクがありますが、特に頭が痛いのはお金がかかること! 今回は、空き家のリスクとお金について、さらに保有方法を中心にお伝えします。

住んでいなくても負担大! 空き家が抱える5つのリスク

実家の空き家は「親が亡くなった後誰も住まないから」「親が老人ホームに入所したから」「親が子の家に同居したから」などの理由で発生しますが、空き家には大きく分けて5つのリスクがあります。

1. 美観・景観上のリスク

人が住まない家は劣化が早く進みます。外回りが汚れても掃除もされず、草木も伸び放題になると、外観も汚らしくなっていきます。
また、ゴミの不法投棄やいたずらなどもあり、放っておくと「お化け屋敷」「ゴミ屋敷」などと言われる状態になってしまうことも。

2. 防犯上のリスク

空き家は、不法侵入や盗難、放火などの犯罪被害を受ける可能性が高くなります。最近では空き家が振り込め詐欺グループのアジトとして使われていた、逃亡犯が空き家に潜んでいた、などのニュースも報じられました。

3. 防災上のリスク

古い空き家は災害に弱いとされています。特に1981年5月以前に建築許可を受けた建物は、旧耐震基準で建築されているので耐震性が低く、大きな地震が発生すると倒壊する危険があります。

4. 近隣への加害リスク

庭の雑草や木の枝が伸びて隣の境界を越えると、近隣住民に迷惑をかけてしまいます。他にも、塀が倒れたり、屋根瓦が落ちたりして人や車などを傷つけてしまうことがあれば、損害賠償にまで発展することもあります。

5. お金のリスク

人が住まなくても空き家には維持費がかかります。なかでも負担が大きいと感じるのは固定資産税(市街地では都市計画税も)でしょう。電気代・水道代などは、使用していなくても基本料金がかかります。他にも火災保険料、自治会費など、遠方の空き家であれば交通費も馬鹿になりません。これらを合計すると毎年10万円以上、中には数10万円単位の維持費がかかるケースも少なくありません。

実家が空き家になったら押さえておきたい2つのポイント

さまざまなリスクがある空き家問題。すでに実家が空き家という人、将来実家が空き家になりそうという人もいるかもしれません。では実家が空き家になった場合、どうすればよいのでしょうか。
主な対応方法としては「保有」「活用」「売却」がありますが、多くの人は、空き家のまましばらく「保有」しています。ここでは空き家を「保有」する場合に大切なポイントを2つお伝えします。

1. 特定空き家にしない

2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」という法律により、各市区町村は、管理されずに放置されて近隣に悪影響を与えている空き家を「特定空家等」に指定できるようになりました。
「特定空家等」に指定されると、所有者は空き家の管理の是正を自治体から促されます。所有者が従わない場合は、最終的に自治体が空き家の所有者に代わって解体し、所有者は解体費用を請求されてしまいます。
自治体は管理の是正を、
助言・指導→勧告→命令→行政代執行(=解体)
と段階的に所有者へ促しますが、勧告の段階で所有者は土地の固定資産税等は軽減を受けられなくなります。そうなると、空き家が建っていても固定資産税等の負担が大きく増えてしまいます。つまり、少なくとも「特定空家等」に指定されないようにしっかりと管理することが必要です。

2. 空き家のコストを減らす

空き家のコストとなっている項目を一つひとつ見直せば、コストを抑えることも可能です。

・固定費の節約
まずは光熱費を見直しましょう。
電気は、人が住んでいるときには大きなアンペア数での契約が必要でも、空き家になると10アンペアで十分です。例えば東京電力の場合、40アンペアを10アンペアに変更すると基本料金は1年間で1万円以上安くなります(スタンダードSの場合。2019年7月18日時点)。

水道も、1年に数回しか空き家に訪れないのであれば解約して、訪問時に水道局へ一時使用の連絡をするという方法にすれば節約できます。ポリタンクや飲料水を持参するのも良いでしょう。

ガスはもちろん解約しましょう。火災保険は、万が一の場合に建替える必要がなければ、解体と片付けなどをまかなえる程度の保険金額に変更すると保険料が安くなります。ただし、保険会社により取り扱いの可否が異なるので確認してください。

会費を払う自治会も、必要がなければ脱会しましょう。

・空き家管理サービスの利用
最近は、空き家管理サービスを行なう会社が増えています。地域や会社によりサービス内容や料金は異なりますが、特に空き家が遠方の場合、1,000円から1万円ほどで月1回の見回りや手入れをしてくれるので安心です。
自分で空き家の管理をする場合の交通費や時間コストと比べてみてメリットがあるようなら、利用を検討することをおすすめします。

・残置物の整理
実家の空き家には思い出とともに多くのモノが残されています。空き家を解体したり売却したりする際には、これらの残置物を処分しなければなりません。いざ解体や売却となったときに残置物の処分が間に合わなければ、最終的に廃棄業者に依頼することになり処分費用が数十万円から100万円以上かかることもあります。そのため、あらかじめ時間をかけてコツコツと整理・処分しておけば、処分にかかる費用も節約できます。
時は金なり。できれば生前整理も含め、不要なモノは早めに整理・処分しておきましょう。

空き家を壊すと税金が6倍ってホント?

リスクの多い空き家ですが、それでも空き家にしておく人が多いのはなぜか。
もしかしたら、テレビやネットで「空き家を解体して更地にすると税金が6倍になる」という話を耳にしたことはありませんか? この話は「土地に住宅が建っていれば固定資産税の課税標準額が6分の1に軽減される」という税金の特例がもとになっています。
この話が、空き家がいつまでも解体されず、空き家増加の原因のひとつと言えるでしょう。

では本当に、空き家を解体すると税金は6倍に上がってしまうのでしょうか?
実は、これは誤った情報です。

ここで、固定資産税等のしくみを解説します。
土地や建物を所有している人には、毎年固定資産税がかかります。さらに市街地では都市計画税もかかってきます。固定資産税の税率は課税標準額の1.4%、都市計画税は0.3%です。
住宅が建っている200㎡(約60坪)までの宅地を小規模住宅用地といい、課税標準額が固定資産税は6分の1に、都市計画税は3分の1に軽減されるので、税金は大幅に安くなります。

ところが、実は更地でも税金は軽減されているのです。更地は非住宅用地といい、課税標準額が評価額の70%になります(※2)。そのため、建物を解体しても土地の税金は6倍までは増えません。

シミュレーションして確認しましょう。
固定資産税評価額が1,800万円の40坪の宅地に、評価額300万円の古い住宅が建っている場合の、解体前・解体後の税金を比較してみます。なお、建物の税額は、固定資産税評価額にそのまま税率をかけて計算します。

■解体前
土地 固定資産税 1,800万円×1/6×1.4%=4.2万円
   都市計画税 1,800万円×1/3×0.3%=1.8万円    計 6.0万円

建物 固定資産税 300万円×1.4% =4.2万円 
   都市計画税 300万円×0.3% =0.9万円    
計 5.1万円
土地と建物の合計 11.1万円

■解体後
土地 固定資産税 1.800万円×70%×1.4%=17.64万円
都市計画税 1.800万円×70%×0.3%= 3.78万円  
計 21.42万円
建物 固定資産税  なし   
土地と建物の合計 21.42万円

解体前・解体後の土地の固定資産税は、4.2万円→17.64万円で4.2倍。都市計画税も含めると11.1万円→21.42万円で約3.6倍。
しかし、解体すると建物の税金が0になるので、合計額は11.1万円→21.42万円で約1.9倍となります。税額の差は約10.3万円です。
このケースの場合、空き家を所有している際の維持管理に毎年約10.3万円以上かかるのであれば、解体したほうが年間のコストは安くなります。

ただし、建物を取り壊すときには解体費用がかかります。解体費用も考慮した上で、維持管理を続けた場合の経済的・精神的コストを比較したうえで検討してください。
少なくとも「空き家を解体すると税金が6倍になる」という情報に踊らされることなく、自分たちのケースをしっかりと計算をして、解体をするか空き家のまま管理を続けるかを決めましょう。

なお、空き家の解体に助成金制度を設けている市区町村も増えてきました。助成金をもらえれば、解体費用の負担を減らすこともできます。詳細は市区町村の窓口で確認してみてください。

あなたの実家も空き家に? ~空き家になる前に~

空き家は意外と身近な問題です。「実家が空き家になる可能性はあるのか?」「もしも空き家になったらその後どうするか?」「空き家にかかるお金はどれくらいか?」などは早めに検討しておくことが大切です。空き家になってから慌てないように、早い段階から家族で話し合っておきましょう。

(※2)東京23区では都税条例により65%に減額されている。他にも独自の軽減措置がある地方公共団体がある。

執筆者プロフィール:
橋本 秋人(ファイナンシャル・プランナー)
住宅メーカーで30年以上相続対策・不動産活用を担当。在職中にCFPⓇ、FP技能士1級を取得。勤務先での業務及び日本FP協会埼玉支部、金融機関、一般法人等でセミナー講師、相談、執筆などを経験。
2016年にファイナンシャル・プランナー、不動産コンサルタントとして独立。現在は、FPオフィス ノーサイド代表としてセミナー、執筆、不動産コンサルティング、相談業務を中心に活動。不動産投資サイト等にコラム連載中。その他メディア執筆多数。